群像2023年6月号

【新人文学賞】村雲菜月 夢野寧子 【特集】村田沙耶香

4月5日、今年も群像新人文学賞の選考会(選考委員は柴崎友香さん、島田雅彦さん、古川日出男さん、町田康さん、松浦理英子さん)がおこなわれました。討議の末、村雲菜月さん「もぬけの考察」、夢野寧子さん「ジューンドロップ」が当選作に。去年同様W受賞となりました。選評とともに、お二人のデビュー作をぜひお楽しみください。

四〇八号室の入れ替わる住人たち。不穏で不気味なマンションの一室、コロナ禍の閉塞感――。観察された日常のひずみを描く、インスタレーション的実験作。(村雲菜月「もぬけの考察」)

六月。鈍い空。電車を降り駅前の人混みからガード下を抜けて過ぎるそのとき、いつものあれが目の中に弾けた。(夢野寧子「ジューンドロップ」)


2003年に群像新人文学賞でデビューされた村田沙耶香さんは、2023年でデビュー20周年。創作、ロングインタビュー、批評、全単行本解題と大充実の特集「村田沙耶香の20年」を組んでいます。

窓の外に暴力を見つけた。みんな、少しだけこの街の暴力に慣れている――。村田沙耶香さんの新作「整頓」の前篇。

群像新人文学賞でデビューしてから二十年。発表してきた作品を振り返ることで見えてくる、小説作法。村田沙耶香さんのロングインタビュー「小説を裏切らず、変わらずに書き続ける」聞き手は岩川ありささんです。

社会通念や常識への疑義を描き続けてきた村田沙耶香は、いかにして世界的な作家になったのか。江南亜美子さん批評「内側から穴をうがつ 村田沙耶香論」、宮澤隆義さんによる全単行本解題をお届けします。


【新連載】木下龍也 諏訪部浩一 【創作】小池昌代

あなたの短歌に胸を撃ち抜かれる準備はできています。いい短歌を読み、いい短歌を詠むための場所、ここに発足。「読者参加型」ですので、みなさまどしどしご投稿ください。(木下龍也「群像短歌部」)

「ただの探偵小説」なのか、それとも「文学」なのか。私立探偵フィリップ・マーロウを生んだチャンドラーの実像に迫る。(諏訪部浩一「チャンドラー講義」)

久しぶりに会った融は、松葉杖をついていた。「やさぐれた貴公子」との会話は、思わぬ方向に進んでいく。(小池昌代「うどの貴人」)


【批評】小川公代 【論点】合田 文 【新連載書評】平沢 逸

フィクションは、現実を生き抜く力を授けてくれる。保守的な社会における女たちの生きづらさを綴った翔ぶ物語が、いかにして世界を変える原動力となり得るのか。(小川公代「翔ぶ女たち 『エブエブ』と文学のエンパワメント――辻村深月と野上弥生子」)

「論点」は「パレットーク」編集長の合田文さんによる「SNSの中で生きる「共感型メディア」の在り方」

「群像」とおもにその初出をまとめた単行本、そして文芸文庫を出しているのが「文一」(講談社文芸第一)です。「文一」から出た本についてのさまざまを書いていただく「文一の本棚」がスタート。平沢逸さんが取りあげたのは保坂和志さん『プレーンソング』。


【追悼】坂本龍一 富岡多惠子 【本の名刺】星野 太 町田 康

坂本龍一さん、富岡多惠子さんが逝去されました。舩橋淳さんに坂本さんの追悼文を、安藤礼二さん、伊藤比呂美さん、上野千鶴子さん、町田康さんに富岡さんの追悼文をお願いしました。謹んでお悔やみを申し上げます。

今月の「本の名刺」星野太さん『食客論』町田康さん『口訳 古事記』です。


【レポ漫画】増村十七 【最終回】上出遼平 山本貴光



今月の増村十七さんによるレポ漫画「100分de名言を求めて」は、《世界三大難書》のひとつ、ヘーゲル『精神現象学』について。講師の斎藤幸平さんが現代的な問題とつなげて読み解きます。

一週間の山行を終え、山を降りた男を待っていたこととは。(上出遼平「歩山録」)

文字列を目から体内に入れることで生じる感情は、どのように作用しているのか。新感覚批評の最終章。(山本貴光「文学のエコロジー」)


もくじ

〈新人賞発表〉

  • 第66回群像新人文学賞発表
  • 当選作:「もぬけの考察」村雲菜月
  • 当選作:「ジューンドロップ」夢野寧子
  • 受賞の言葉
  • 選評(柴崎友香/島田雅彦/古川日出男/町田康/松浦理英子)

〈特集・村田沙耶香の20年〉

〈創作〉

  • 「整頓 前篇」村田沙耶香

〈ロングインタビュー〉

  • 「小説を裏切らず、変わらずに書き続ける」村田沙耶香(聞き手:岩川ありさ)

〈批評〉

  • 「内側から穴をうがつ 村田沙耶香論」江南亜美子

〈解題〉

  • 「全単行本解題」宮澤隆義

〈新連載〉

  • 「群像短歌部」木下龍也
  • 「チャンドラー講義」諏訪部浩一

〈創作〉

  • 「うどの貴人」小池昌代

〈批評〉

  • 「翔ぶ女たち〔2〕『エブエブ』と文学のエンパワメント――辻村深月と野上弥生子」小川公代

〈論点〉

  • 「SNSの中で生きる「共感型メディア」の在り方」合田文

〈新連載書評〉

  • 「文一の本棚 保坂和志『プレーンソング』」平沢逸

〈追悼・坂本龍一〉

  • 「RYUICHI SAKAMOTO――NO BORDER」舩橋淳

〈追悼・富岡多惠子〉

  • 「富岡さんの釋迢空」安藤礼二
  • 「流れ流れていきつく先は」伊藤比呂美
  • 「ご恩わすれまへん」町田康
  • 「戦後最大の女性ニヒリスト」上野千鶴子

〈本の名刺〉

〈レポ漫画〉

  • 「100分de名言を求めて〔6〕」増村十七

    〈最終回〉

      • 「歩山六〔8〕」上出遼平
      • 「文学のエコロジー〔16〕」山本貴光

      〈コラボ連載〉

        • 「SEEDS 現代新書のタネ〔15〕陰謀論と無知学 「本当のような噓」と「噓のような本当」のあいだで」鶴田想人

              〈連載〉

              • 「タブー・トラック〔4〕」羽田圭介
              • 「多頭獣の話〔9〕」上田岳弘
              • 「の、すべて〔17〕」古川日出男
              • 「鉄の胡蝶は夢は記憶は歳月に彫るか〔58〕」保坂和志
              • 「レディ・ムラサキのティーパーティー 姉妹訳 ウェイリー源氏物語〔7〕」毬矢まりえ×森山恵
              • 「野良の暦〔8〕」鎌田裕樹
              • 「「くぐり抜け」の哲学〔9〕」稲垣諭
              • 「文化の脱走兵〔9〕」奈倉有里
              • 「庭の話〔11〕」宇野常寛
              • 「世界の適切な保存〔14〕」永井玲衣
              • 「なめらかな人〔15〕」百瀬文
              • 「投壜通信〔9〕」伊藤潤一郎
              • 「磯崎新論〔18〕」田中純
              • 「地図とその分身たち〔19〕」東辻賢治郎
              • 「こんな日もある 競馬徒然草〔28〕」古井由吉
              • 「現代短歌ノート二冊目〔32〕」穂村弘
              • 「日日是目分量〔34〕」くどうれいん
              • 「星占い的思考〔39〕」石井ゆかり
              • 「所有について〔23〕」鷲田清一
              • 「文芸文庫の風景〔30〕」M!DOR!

                〈随筆〉

                • 「小説を助けてくれたいくつかの声」安堂ホセ
                • 「心のラベルがない世界」飯村周平
                • 「訃報を待つ」岩内章太郎
                • 「あなたを忘れない――クィア文化アーカイブの挑戦」周東美材
                • 「猫が舌を出すとき、手のひらには雪が降る」谷川嘉浩
                • 「誰も教えてくれなかった……」中真生
                • 「アーティチョークの心」なみちえ
                • 「文学のトゲ」松永K三蔵
                • 「田舎から見つめる田舎」よこのなな

                〈書評〉