群像2023年2月号

【新年短篇特集】黒井千次 三木 卓 川崎 徹 小池昌代 長野まゆみ 円城 塔 石沢麻依

 

新年短篇特集は豪華7名の饗宴です。マジメで深刻な事態は、いつも冗談の顔をしてやってくる――。日常を通して見つめる、現代の老いのすがた。(黒井千次「消息)

 

家を訪ねてきた泥だらけの男は、娘に会いに来たと言って不敵に笑う。(三木 卓「来訪した者」)

 

生き死にと今日明日の暮らしで手一杯だったあの夏の日。経験したことのない過去の記憶が立ち上がる。(川崎 徹「まだ生まれていない、三年後に生まれる」)

 

 

 

「あなたみたいな人を探していたのよ」。週に三日、空き家管理の仕事をすることになった。腐敗臭のする家で、ずっしりとした時間の重みに和歌をかさねる日々。(小池昌代「Cloud On the 空き家」)

 

かすかな記憶は上書きされ、その風景は意識の中で景色へと変わってゆく。中学一年の春、入学式の列にぼくは兄を見つけた。(長野まゆみ「兄とぼくと、あのひと」)

 

時の止まったような雪の夜、砕波が記憶媒体カードを机に打つと、目の前に投影像が現れた。「わたしの名は」。像は視線を向ける。(円城 塔「レンダリング・タイムカプセル」)

 

不眠に陥ったあなたは、友人に誘われ獏の肉を食べる不眠者の集いに参加する。(石沢麻依「獏、石榴ソース和え」)


【中篇一挙】湯浅真尋 【連作】柴崎友香

 

隣人から届く奇妙な手紙たちを受け取るうちに、私は「忠実なる読み手」として目覚めていく――。新鋭による鮮烈作。(湯浅真尋「ディスタンス」)

 

砂漠のリゾートホテルで、「あの国」に巨大台風が直撃することをわたしは知る――、柴崎友香さんの連作「帰れない探偵」、今月は「砂漠の夜空に歌おう」


【対談】藤原辰史×猪瀬浩平

 

足もとからひろがる知の世界とは。市井の人びとの生と物言わぬ植物への思索をめぐり、歴史研究者と文化人類学者が語りあう。本誌連載が単行本化した藤原辰史さん『歴史の屑拾い』とあわせてぜひ。(藤原辰史×猪瀬浩平「土、泥、そして屑と植物をめぐって」)


【批評/ロング書評】樫村晴香 宮澤隆義 【論点】谷頭和希

 

オイディプースとスピンクスの邂逅において何が生じ/生じえなかったのか。今もなお未決の問いとしてあるソポクレースの問題を思考する。(樫村晴香「人類最後の贈与――オイディプースとスピンクスの邂逅」)

 

イデオロギーが空洞化していくなか、ふたりの作家はいかに「エコノミーの問題」に向き合ったのか。(宮澤隆義「「生き延び」の光学――佐藤究/村田沙耶香論」)

 

資本=ネーション=国家の三位一体構造こそが、交換様式の力と歴史的変容の意味を解く鍵となる。「バーグルエン賞」を受賞した哲学者の新著を、『可能なるアナキズム』の著者が論じる。柄谷行人『力と交換様式』の長篇書評です。(山田広昭「希望の原理としての反復強迫」)

 

今月の論点は、谷頭和希さん「テーマパークにダイブせよ!」です。


【二◯世紀鼎談】松浦寿輝×沼野充義×田中 純 【コラボ連載】中村沙絵

 

 

 

 

 

インターネットによって生まれたユートピア/ディストピアをめぐって。松浦寿輝さん×沼野充義さん×田中純さんによる「二〇世紀の思想・文学・芸術」、第11回は「インターネットの出現」です。

 

現代新書編集部とのコラボ連載「SEEDS 現代新書のタネ」第12回は中村沙絵さん「ケアの文化人類学が現代日本にもたらすもの」


もくじ

 

 

〈新年短篇特集〉

 

 

    • 消息  黒井千次

 

    • 来訪した者  三木 卓

 

    • まだ生まれていない、三年後に生まれる 川崎 徹

 

    • Cloud On the 空き家  小池昌代

 

    • 兄とぼくと、あのひと  長野まゆみ

 

    • レンダリング・タイムカプセル  円城 塔

 

    • 獏、石榴ソース和え  石沢麻依

 

 

〈中篇一挙〉

 

 

    • ディスタンス  湯浅真尋

 

 

〈対談〉

 

 

    • 土、泥、そして屑と植物をめぐって  藤原辰史×猪瀬浩平

 

 

〈連作〉

 

 

    • 帰れない探偵 砂漠の夜空に歌おう  柴崎友香

 

 

〈批評〉

 

 

    • 人類最後の贈与――オイディプースとスピンクスの邂逅  樫村晴香

 

    • 「生き延び」の光学――佐藤究/村田沙耶香論  宮澤隆義

 

 

〈ロング書評〉

 

 

 

    • 柄谷行人『力と交換様式』長篇書評――希望の原理としての反復強迫  山田広昭

 

 

〈論点〉

 

 

    • テーマパークにダイブせよ!  谷頭和希

 

 

〈鼎談シリーズ〉

 

 

    • 二〇世紀の思想・文学・芸術〔11〕  松浦寿輝×沼野充義×田中 純

 

 

 

〈コラボ連載〉

 

 

 

 

    • SEEDS 現代新書のタネ〔12〕

 

 

 

 

 

 

 

〈連載〉

 

 

    • 多頭獣の話〔5〕  上田岳弘

 

    • の、すべて〔13〕  古川日出男

 

    • 新「古事記」an impossible story〔14〕  村田喜代子

 

    • 鉄の胡蝶は夢は歳月に記憶は彫るか〔54〕  保坂和志

 

    • レディ・ムラサキのティーパーティー――姉妹訳 ウェイリー源氏物語〔3〕  毬矢まりえ×森山 恵

 

    • 歩山録〔4〕  上出遼平

 

    • 野良の暦〔4〕  鎌田裕樹

 

    • 「くぐり抜け」の哲学〔5〕  稲垣 諭

 

    • 文化の脱走兵〔5〕  奈倉有里

 

    • 庭の話〔8〕  宇野常寛

 

    • 事務に狂う人々〔9〕  阿部公彦

 

    • 撮るあなたを撮るわたしを〔8〕  大山 顕

 

    • 世界の適切な保存〔10〕  永井玲衣

 

    • なめらかな人〔11〕  百瀬 文

 

    • 文学のエコロジー〔12〕  山本貴光

 

    • 投壜通信〔7〕  伊藤潤一郎

 

    • 磯崎新論〔14〕  田中 純

 

    • 地図とその分身たち〔15〕  東辻賢治郎

 

    • 言葉の展望台〔21〕  三木那由他

 

    • こんな日もある 競馬徒然草〔24〕  古井由吉

 

    • 現代短歌ノート二冊目〔28〕  穂村 弘

 

    • 日日是目分量〔30〕  くどうれいん

 

    • 星占い的思考〔35〕  石井ゆかり

 

    • 文芸文庫の風景〔26〕  浜野令子

 

 

 

 

 

〈随筆〉

 

 

    • 明るいほうへ・剝き身クラブへようこそ  安達茉莉子

 

    • 牡蠣のようなセックスから遠く離れて  石原 海

 

    • おのおのめいめいそれぞれの暮らしのもろもろ  いちやなぎ

 

    • あまりにも短い  伊藤 紺

 

    • 和食のコミュニケーションモード  小倉ヒラク

 

    • 音楽ファン失望のチケット問題  辰巳JUNK

 

    • 地球がまわるとき  野田祥代

 

    • 現代口語演劇のその先で  宮崎玲奈

 

    • 誰もが縦になる  吉岡 乾

 

 

〈書評〉

 

 

    • 『Ultimate Edition』阿部和重  吉川浩満

 

    • 『スピノザ』國分功一郎  星野 太