群像2023年1月号

【創作】木村紅美 井戸川射子 草野理恵子 沼田真佑

巻頭は、先日『あなたに安全な人』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した木村紅美さんによる「夜のだれかの岸辺」一挙掲載。十九の春、私はあたらしい仕事を始めた。毎晩、添い寝してほしい、ついでにごはんもいっしょに食べてほしい、一回三千円あげる――。それが雇い主ソヨミさんの条件だった。

短篇は3本です。先月詩をご寄稿いただいた井戸川射子さん「共に明るい」。バスにいる全員に向けたような言い方だった。前から三列目に座っていた女が、中央の通路に立って話している。

2022年11月号のエッセイ「美しい元素」が話題になった草野理恵子さん「島と君と犬そして兄」。〈僕は舟に乗って逃げる 大きな魚と小さな魚を連れて〉。ゆるやかに波うち、毒針を隠し持つ言葉を丸ごとのみこんで。

木山シリーズ最新作、沼田真佑さん「カタリナ」。頭の奥深いところにできた染みをちらすために、作家の木山は音楽を鼓膜へ流しこむ。


【小特集・山田詠美】山田詠美 石戸 諭 清水良典 長瀬 海 【小特集・多和田葉子】多和田葉子 小澤英実 松永美穂 

今月はふたつの豪華な小特集を企図。自伝小説『私のことだま漂流記』の刊行にあわせた「小特集・山田詠美」石戸 諭さんが聞き手となった山田詠美さんインタビュー「「小説家」という異形の生き物」と、清水良典さん「「ふるさと」からの旅路」長瀬海さん「愛に生きて行く小説家」の書評二本です。

三部作完結篇『太陽諸島』刊行にあわせた「小特集・多和田葉子」小澤英実さんが聞き手の多和田葉子さんインタビュー「歴史の詰まった海、喚起される記憶」と、松永美穂さんの書評「国境なき船旅、幻の故郷と饒舌な旅人たち」


【短期集中新連載】高原 到 【対談】斎藤幸平×竹田ダニエル 【評論】若松英輔

戦争の本質にある「憎しみの連鎖」が日本で断ち切られたのはなぜか。ベストセラー小説を導きの糸にして、日本の戦後を問う短期集中新連載がスタート。(高原 到「二つの戦争のはざまで――『同志少女よ、敵を撃て』とウクライナ戦争」)

経済思想家の斎藤幸平さんと、本誌連載「世界と私のAtoZ」が単行本化された竹田ダニエルさんによる「Z世代」をめぐる対談「「Z世代」の革命のかたち」。ネットとリアルの狭間で、絶望の時代を破り抜いて生きていく、Z世代の向かう先は。

感情と情念、「利」の概念を通じて「怒り」について考える。私たちはどのように向き合うことができるのか。(若松英輔「怒りについて」)


【野間文芸賞/野間文芸新人賞】松浦理英子 町屋良平 【論点】戸谷洋志 福永 信 

75回野間文芸賞は松浦理英子さん『ヒカリ文集』に、第44回野間文芸新人賞は町屋良平さん『ほんのこども』に決定しました。受賞のことばと選評を掲載しています。

論点は戸谷洋志さんによる「「退席する自由」の尊重――哲学対話再考」福永 信さんによる「ファーレ立川の岡﨑乾二郎作品撤去とパブリックアートの未来」


【エッセイ】水戸部功 【レビュー】藤井仁子



故・菊地信義さんの講談社文芸文庫でのお仕事をまとめた『装幀百花 菊地信義のデザイン』が刊行されます。編集した水戸部功さんの巻末解説「グーテンベルクの夢」を転載しています。

今号から不定期で始める「レビュー」。今回は藤井仁子さんによる「ゴングなき戦い――『ケイコ 目を澄ませて』讃」


もくじ

〈中篇一挙掲載〉

  • 夜のだれかの岸辺  木村紅美

〈創作〉

  • 共に明るい  井戸川射子
  • 島と君と犬そして兄  草野理恵子
  • カタリナ  沼田真佑

〈短期集中新連載〉

  • 二つの戦争のはざまで――『同志少女よ、敵を撃て』とウクライナ戦争  高原 到

〈小特集・山田詠美〉


〈インタビュー〉

  • 「小説家」という異形の生き物  山田詠美(聞き手:石戸 諭)

〈書評〉

  • 「ふるさと」からの旅路  清水良典
  • 愛に生きて行く小説家  長瀬 海

〈小特集・多和田葉子〉


〈インタビュー〉

  • 歴史の詰まった海、喚起される記憶  多和田葉子(聞き手・構成:小澤英実)

〈書評〉

  • 国境なき船旅、幻の故郷と饒舌な旅人たち  松永美穂

〈対談〉

  • 「Z世代」の革命のかたち  斎藤幸平×竹田ダニエル

〈評論〉

  • 怒りについて  若松英輔

〈野間文芸賞・野間文芸新人賞発表〉

  • 第75回野間文芸賞受賞作「ヒカリ文集」
  • 受賞のことば/選評(奥泉 光/佐伯一麦/多和田葉子/町田 康/三浦雅士)
  • 第44回野間文芸新人賞受賞作「ほんのこども」
  • 受賞のことば/選評(小川洋子/川上弘美/高橋源一郎/長嶋 有/保坂和志)

〈批評〉

  • 空海〔9〕  安藤礼二

〈論点〉

  • 「退席する自由」の尊重――哲学対話再考  戸谷洋志
  • ファーレ立川の岡﨑乾二郎作品撤去とパブリックアートの未来

〈『装幀百花 菊地信義のデザイン』刊行記念エッセイ〉

  • グーテンベルクの夢 水戸部功

〈レビュー〉

  • ゴングなき戦い――『ケイコ 目を澄ませて』讃  藤井仁子

〈コラボ連載〉

  • SEEDS 現代新書のタネ〔11〕民主主義へと向かう道のりで 中欧知識人たちの「デモクラシーセミナー」  中井杏奈

      〈連載〉

      • 多頭獣の話〔4〕  上田岳弘
      • の、すべて〔12〕  古川日出男
      • 新「古事記」an impossible story〔13〕  村田喜代子
      • 鉄の胡蝶は記憶を夢は歳月に彫るか〔53〕  保坂和志
      • 二月のつぎに七月が〔45〕  堀江敏幸
      • レディ・ムラサキのティーパーティー――姉妹訳 ウェイリー源氏物語〔2〕  毬矢まりえ×森山 恵
      • 歩山録〔3〕  上出遼平
      • 野良の暦〔3〕  鎌田裕樹
      • 「くぐり抜け」の哲学〔4〕  稲垣 諭
      • 文化の脱走兵〔4〕  奈倉有里
      • 庭の話〔7〕  宇野常寛
      • 事務に狂う人々〔8〕  阿部公彦
      • 世界の適切な保存〔9〕  永井玲衣
      • なめらかな人〔10〕  百瀬 文
      • 文学のエコロジー〔11〕  山本貴光
      • 磯崎新論〔13〕  田中 純
      • 地図とその分身たち〔14〕  東辻賢治郎
      • 言葉の展望台〔20〕  三木那由他
      • こんな日もある 競馬徒然草〔23〕  古井由吉
      • 現代短歌ノート二冊目〔27〕  穂村 弘
      • 日日是目分量〔29〕  くどうれいん
      • 「近過去」としての平成〔34〕  武田砂鉄
      • 星占い的思考〔34〕  石井ゆかり
      • 所有について〔20〕  鷲田清一
      • 辺境図書館〔34〕  皆川博子
      • 国家と批評〔26〕  大澤 聡
      • 〈世界史〉の哲学〔145〕  大澤真幸
      • 文芸文庫の風景〔25〕  浜野令子

        〈随筆〉

        • アンチ・ボイス、アンチ・セクシュアル  鮎川ぱて
        • わけるとか わけないとか  緒方壽人
        • ハートを煎じる人  鈴木涼美
        • テクノロジーとミルフィーユ  永田 希
        • 不可視の領分へ  馬込将充

        〈書評〉

        • 『はぐれんぼう』青山七恵  蜂飼 耳
        • 『君のクイズ』小川 哲  高山羽根子
        • 『デクリネゾン』金原ひとみ  児玉美月
        • 『風土記博物誌――神、くらし、自然』三浦佑之  上野 誠