群像2022年11月号

【新連載】上出遼平「歩山録」 鎌田裕樹「野良の暦」 【中篇一挙】紗倉まな 須賀ケイ グレゴリー・ケズナジャット

 

元テレビマンと元書店員による新連載が2本、スタートです。

 

夜明け前の新宿を出発した男は、奥多摩で登山道に入り、一週間の旅に出た。彼の足は、思索は、どこへ向かうのか。(上出遼平「歩山録」)

 

十年の本屋勤務を経て始めた農家見習い。畑の仕事を覚えるにつれ、見える風景も変わっていく。めぐる季節と日々の記録。(鎌田裕樹「野良の暦」)

 

 

収穫の秋、まさに今号は創作のハーベスト。中篇3本、一挙掲載しています。

 

夫の友人の結婚式に夫婦で参加することになっている。式に集まる旧友の中に、あの女がいるかもしれない―。(紗倉まな「見知らぬ人」)

 

妻との齟齬に満ちた日常がルリユールの身振りで修復されるとき、穏やかな時間が流れ始める。(須賀ケイ「蝶を追う」)

 

母が出て行ったサウスカロライナの家には、ラッセルには分からない父の故郷の言葉が流れていた。自分は、故郷に帰るのだろうか。(グレゴリー・ケズナジャット「開墾地」)


【創作】石沢麻依 片岡義男 くどうれいん 津村記久子 長島有里枝 【連作】柴崎友香

 

マグノリアの手のように見える白い花は、私が失った白い左手の記憶を呼び起こさせる。(石沢麻依「マグノリアの手」)

 

下北沢で昔から営業しているバーに、ようやく足を踏み入れた。玲子が店を預かったのは、高木が離婚した十四年前だという。(片岡義男「あのバーに入ってみた」)

 

ジューススタンドでアルバイトをしているばみちゃんは、店長の志摩さんの分厚い皮の剝き方が気になって仕方がない。(くどうれいん「キウイ縞々」)

 

祖父が遺した紙袋の中には、大量のペンが入っていた。形見の行く末を決めるため、私は「ひすい」さんに連絡をとった。(津村記久子「買い増しの顚末」)

 

あの日から一年が経つ。帰宅した睦が未土里に差し出したのは、ひまわりの小さなブーケだった。(長島有里枝「去年の今日」)

 

今から十年くらいあとの話。砂漠の国の巨大リゾートを訪れた探偵の「わたし」は依頼に忙しい。(柴崎友香「帰れない探偵 太陽と砂の街で」)


【エッセイ】小川公代 温又柔

 

小川公代さんにエリザベス女王について、温又柔さんには没後三〇年となった李良枝について、特別エッセイをご寄稿いただきました。

 

英国史上最長の在位を誇った女王の死。英文学者によるメモワール。(小川公代「エリザベス女王 ――唇を嚙み締めて」)

 

ずっと日本で育った。ほとんど日本語で生きてきた。しかし、日本人としては、生まれなかった。小説家同士の時代を越えた共鳴―。(温又柔「「不自由さ」のなかで書くこと――李良枝没後三〇年に寄せて」)


【論点】枇谷玲子 羽佐田瑶子 三木那由他 【鼎談】二◯世紀の思想・文学・芸術

 

論点は3本。枇谷玲子さん「私たちは今、自由なの?――ジェンダー平等先進国の実態と課題」は北欧フェミニズムを紹介。羽佐田瑶子さん「『ベイビー・ブローカー』×『PLAN 75』からあぶり出される、「自己責任」の顚末」は、話題の映画二作を取り上げ批評しています。三木那由他さん「「トランスジェンダー問題」を語り直す」は、10月に邦訳が刊行される『トランスジェンダー問題』について。

 

松浦寿輝さん、沼野充義さん、田中純さんによる鼎談「二〇世紀の思想・文学・芸術」が再開。今回は「エイティーズ――『空白』の時代」がテーマです。


【最終回】神田伯山 【コラボ連載】梅田孝太

 

神田伯山さん 「講談放浪記」が最終回を迎えました。

 

現代新書編集部とのコラボ連載「SEEDS」、今月は梅田孝太さん「自殺してはいけない――ショーペンハウアーとともに考える」です。


もくじ

 

 

〈新連載〉

 

 

    • 歩山録  上出遼平

 

    • 野良の暦  鎌田裕樹

 

 

〈中篇一挙〉

 

 

    • 見知らぬ人  紗倉まな

 

    • 蝶を追う  須賀ケイ

 

    • 開墾地  グレゴリー・ケズナジャット

 

 

〈創作〉

 

 

    • マグノリアの手  石沢麻依

 

    • あのバーに入ってみた  片岡義男

 

    • キウイ縞々  くどうれいん

 

    • 買い増しの顚末  津村記久子

 

    • 去年の一日  長島有里枝

 

 

〈連作〉

 

 

    • 帰れない探偵 太陽と砂の街で  柴崎友香

 

 

〈エッセイ〉

 

 

    • エリザベス女王――唇を噛み締めて  小川公代

 

 

    • 「不自由さ」のなかで書くこと――李良枝没後三〇年に寄せて  温 又柔

 

 

〈論点〉

 

 

    • 私たちは今、自由なの?――ジェンダー平等先進国の実態と課題  枇谷玲子

 

    • 『ベイビー・ブローカー』×『PLAN75』からあぶり出される、「自己責任」の顚末  羽佐田瑶子

 

    • 「トランスジェンダー問題」を語り直す  三木那由他

 

 

〈鼎談〉

 

 

    • 二〇世紀の思想・文学・芸術 第10回「エイティーズ―『空白』の時代」  松浦寿輝×沼野充義×田中 純

 

 

〈最終回〉

 

 

    • 講談放浪記  神田伯山

 

 

〈コラボ連載〉

 

 

    • SEEDS 現代新書のタネ〔9〕自殺してはいけない――ショーペンハウアーとともに考える――梅田孝太

 

 

 

 

 

 

 

〈連載〉

 

 

    • 多頭獣の話〔2〕  上田岳弘

 

    • の、すべて〔10〕  古川日出男

 

    • 新「古事記」 an impossible story〔12〕  村田喜代子

 

    • 鉄の胡蝶は歳月に夢に記憶に彫るか〔51〕  保坂和志

 

    • 「くぐり抜け」の哲学〔2〕  稲垣 諭

 

    • 文化の脱走兵〔2〕  奈倉有里

 

    • 文学ノート・大江健三郎〔3〕  工藤庸子

 

    • 庭の話〔3〕  宇野常寛

 

    • 事務に狂う人々〔6〕  阿部公彦

 

    • 世界の適切な保存〔7〕  永井玲衣

 

    • なめらかな人〔8〕  百瀬 文

 

    • 文学のエコロジー〔9〕  山本貴光

 

    • 磯崎新論〔11〕  田中 純

 

    • 「後」の思考〔3〕  石戸 諭

 

    • 地図とその分身たち〔13〕  東辻賢治郎

 

    • 世界と私のAtoZ〔15〕  竹田ダニエル

 

    • こんな日もある 競馬徒然草〔21〕  古井由吉

 

    • 現代短歌ノート二冊目〔26〕  穂村 弘

 

    • 日日是目分量〔27〕  くどうれいん

 

    • Nの廻廊〔17〕  保阪正康

 

    • 「近過去」としての平成〔32〕  武田砂鉄

 

    • 星占い的思考〔32〕  石井ゆかり

 

    • 所有について〔18〕  鷲田清一

 

    • 辺境図書館〔32〕  皆川博子

 

    • 文芸文庫の風景〔23〕  津田周平

 

    • 極私的雑誌デザイン考〔30〕  川名 潤

 

 

 

 

 

〈随筆〉

 

 

    • シュノーケリング  大森静佳

 

    • 美しい元素  草野理恵子

 

    • 石膏のヒポグリフ  鯨庭

 

    • 近頃の大学生と略字  笹原宏之

 

    • 誰にとっての「青」?  馬場靖人

 

 

〈書評〉

 

 

    • 『嫌いなら呼ぶなよ』綿矢りさ  武田将明

 

    • 『水平線』滝口悠生  福永 信