群像2021年7月号

【批評総特集 「論」の遠近法2021】山本貴光 乗代雄介 中井亜佐子 住本麻子 小澤英実 石川義正 石井ゆかり

1年ぶりの批評総特集、今年も様々な批評文が集まりました。山本貴光「認識と情緒のあいだで」は三島由紀夫賞受賞作の乗代雄介『旅する練習』論、その乗代雄介「掠れうる星たちの実験」は、サリンジャーと柳田國男についての批評。中井亜佐子「エドワード・サイード」はサイードをとりあげて批評そのものについて、住本麻子「傍観者とサバルタンの漫才」は富岡多惠子『波うつ土地』をめぐりフェミニズム理論について考察しています。小澤英実「淵に立つヒューマニズム」は本谷有希子『あなたにオススメの』(「群像」1月号掲載、6月末単行本刊行予定)を中心に本谷作品で描かれる人間性の行方を見すえます。石川義正「ヴァイオリニストと猫、あるいは人工妊娠中絶と寓話について」は生命倫理学における議論の陥穽を突き、石井ゆかり「「風の時代」の星占い的思考。」では「風の時代」とは何なのかを論じています。「いま」に対峙している批評の最前線を感じて下さい。


【創作】今村夏子 リービ英雄 早助よう子

サクランボの家に夫と犬と暮らす友加里は、近所の小学生タムのことが気になって仕方ない。(今村夏子「良夫婦」)

「自分の家」はどこにあるのだろう。西の果てで、もう一つの大陸の記憶が谺する。(リービ英雄「A child is born」)

都市に住まうゲリラは革命のために学習を続ける。幻想と哄笑の小説。(早助よう子「夢の設計者たち」)


【第64回群像新人文学賞 優秀作】松永K三蔵

第64回群像新人文学賞は当選作が石沢麻依「貝に続く場所にて」島口大樹「鳥がぼくらは祈り、」、優秀作が松永K三蔵「カメオ」に決まりました。当選作2作、受賞の言葉、選評は先月号に掲載しています。優秀作のみ誌面の都合上、今月の掲載となりましたが、ぜひ合わせてお読み下さい。

本社からの命令で何としても期日までに倉庫を建てなければならないのに、犬を連れた隣地の男”カメオ”が立ちはだかる。不条理な可笑しみに彩られたデビュー作。


『シンジケート〔新装版〕』刊行記念【対談】穂村 弘×最果タヒ【エッセイ】名久井直子

31年前の穂村弘さんのデビュー歌集『シンジケート』の[新装版]刊行を記念して、穂村さんに最果タヒさんと対談をしていただきました。凝りに凝った素敵な装丁(絵はヒグチユウコさん)になった過程は、名久井直子さんのエッセイにて。


【批評連作】安藤礼二 星野 太

【最終回】日和聡子×ヒグチユウコ

総特集とくくった読み切りだけでなく、安藤礼二さん「空海」星野太さん「食客論」の連作や、連載にもちろん、いたるところに「批評」は散りばめられています。日和聡子さんヒグチユウコさんによる豪華コラボ連載「硝子万華鏡」が最終回をむかえました。単行本化は来年の予定です、お楽しみに。


もくじ

〈創作〉

良夫婦  今村夏子 

A child is born  リービ英雄

夢の設計者たち  早助よう子

〈第64回群像新人文学賞 優秀作〉

カメオ  松永K三蔵

〈批評総特集〉

「論」の遠近法2021

認識と情緒のあいだで――乗代雄介「旅する練習」論  山本貴光

掠れうる星たちの実験 乗代雄介

エドワード・サイード――ある批評家の残響  中井亜佐子

傍観者とサバルタンの漫才――富岡多惠子論  住本麻子

淵に立つヒューマニズム――本谷有希子『あなたにオススメの』のエコロジー  小澤英実

ヴァイオリニストと猫、あるいは人工妊娠中絶と寓話について  石川義正

「風の時代」の星占い的論考。  石井ゆかり

【『シンジケート〔新装版〕刊行記念】

〈対談〉

ときめきと絶望を越えて  穂村 弘×最果タヒ

〈エッセイ〉

緊張の装丁  名久井直子

〈批評連作〉

空海〔3〕  安藤礼二

食客論〔2〕  星野 太

〈最終回〉

硝子万華鏡〔10〕  日和聡子×ヒグチユウコ

〈鼎談シリーズ〉 

二〇世紀の思想・文学・芸術〔8〕世界内戦2.0  松浦寿輝×沼野充義×田中 純

〈コラボ連載〉 

DIG 現代新書クラシックス〔7〕新書の役割――「ナチスは良いこともした」と主張したがる人たち  田野大輔

〈連載〉

見えない道標〔5〕  若松英輔

戒厳〔8〕  四方田犬彦

はぐれんぼう〔12〕  青山七恵

ゴッホの犬と耳とひまわり〔18〕  長野まゆみ

鉄の胡蝶は記憶に歳月の夢に彫るか〔35〕  保坂和志

二月のつぎに七月が〔36〕  堀江敏幸

世界と私のA to Z〔3〕  竹田ダニエル

言葉の展望台〔3〕  三木那由他

スマートな悪 技術と暴力について〔4〕  戸谷洋志

こんな日もある 競馬徒然草〔5〕  古井由吉

旋回する人類学〔5〕  松村圭一郎

ポエトリー・ドッグス〔6〕  斉藤 倫  

マルクスる思考〔10〕  斎藤幸平

現代短歌ノート二冊目〔10〕  穂村 弘

日常の横顔〔10〕  松田青子

日日是目分量〔11〕  くどうれいん  

薄れゆく境界線 現代アメリカ小説探訪〔14〕  諏訪部浩一

歴史の屑拾い〔15〕  藤原辰史

「近過去」としての平成〔16〕  武田砂鉄

「ヤッター」の雰囲気〔16〕  星野概念

星占い的思考〔16〕  石井ゆかり

辺境図書館〔17〕  皆川博子

〈世界史〉の哲学〔133〕  大澤真幸

文芸文庫の風景〔7〕  六角堂DADA

極私的雑誌デザイン考〔18〕  川名 潤

文芸文庫通信〔5〕 

〈随筆〉

陰毛スプラウト  石田夏穂

母がくれた最後の指輪  長田育恵

秦の中国統一をめぐる歴史イフ  佐藤信弥

〈書評〉

『本心』平野啓一郎  小川公代