群像2021年5月号

【短篇】川上弘美 町田 康

対談で訪れた出版社の担当編集者・弓田ミナトが口にした、思わぬ事実。(川上弘美「そういう時に限って冷蔵庫の中のものが」)

葦原中国を平定するため神を遣わすものの誰も帰ってこない。町田版「国譲り神話」。(町田 康「天之忍穂耳命と邇邇芸命」)


【中篇】松波太郎「王国の行方」 藤代 泉「姫沙羅」 湯浅真尋「導くひと」

言葉をきちんと覚えなくちゃいけないなんて誰が決めたんだろう。「命の成長」をユニークに描く意欲作。(松波太郎「王国の行方――二代目の手腕」)

かつて馬が見つめていた場所に、父は姫沙羅の木を植えた。不器用にしか生きられない私たちの静謐な物語。(藤代 泉「姫沙羅」)

「一ノ瀬さんがいなくなりました」。彼はなぜ消えたのか、魂の遍歴。群像新人文学賞受賞後第一作。(湯浅真尋「導くひと」)


小特集「旅」【創作】上田岳弘 倉数 茂 津村記久子 藤野可織 【アンケート】「想い出の駅」

まるで自分の人生じゃないみたいだ。隣で運転する男はアクセルを踏み込む。(上田岳弘「旅のない」) お父さん、この中にいるの。中に入っちゃったの――。(倉数 茂「父の箱」) キヨはゲームの中の地図から架空の都市を作り、レポート用紙に書き込んでは授業中にアサに見せていた。(津村記久子「イン・ザ・シティ」) 事件が起きなかったら知ることもなかった少女の死。わたしは花束を持って現場へ向かう。(藤野可織「花束」)

起点、終点、通過点。51人の駅の記憶。(アンケート「想い出の駅」)


【新連載】星野 太「食客論」 三木那由他「言葉の展望台」 竹田ダニエル「世界と私のA to Z」

友でも敵でもない曖昧な他者=パラサイトの原理を追究する。ロラン・バルトの問いを継ぐパラサイトロジーの試み。(星野 太「食客論」)

コミュニケーションは謎に満ちている。言語で日常を捉え直すと、新しい風景が見えてくる。(三木那由他「言葉の展望台」)

我々は地続きの今を生きている。アメリカ在住のZ世代が綴る時事エッセイ。(竹田ダニエル「世界と私のA to Z」)


【鼎談】吉田恭子×小野正嗣×辛島デイヴィッド 【対談】小川公代×中村佑子

大学の文芸創作科、変わる文芸誌、エージェントの役割……。英米でのデビューの背景はどうなっているのか。(吉田恭子×小野正嗣×辛島デイヴィッド「英語圏で「作家になる」こと」)

「母」に新たな意味を見出し、不可視化されている社会を攪乱する。「ケア」の倫理を探る対話。(小川公代×中村佑子「不可視化されている私たちの言葉の居場所」)


もくじ

〈創作〉

そういう時に限って冷蔵庫の中のものが  川上弘美 

天之忍穂耳命と邇邇芸命  町田 康

王国の行方――二代目の手腕  松波太郎

姫沙羅  藤代 泉

導くひと  湯浅真尋

【小特集「旅」】

〈創作〉

旅のない  上田岳弘

父の箱  倉数 茂

イン・ザ・シティ  津村記久子

花束  藤野可織

〈アンケート〉

想い出の駅

青木 淳/青山 潤/有栖川有栖/イザベラ・ディオニシオ/石田 千/石原良純/市原佐都子/戌井昭人/犬飼勝哉/岩阪恵子/尾形真理子/荻上直子/角幡唯介/香山 哲/川内有緒/上妻世海/こだま/小松由佳/佐伯一麦/坂本千明/紗倉まな/椎名 誠/神 慶太/諏訪哲史/たかのてるこ/田中慎弥/辻 琢磨/辻原 登/津村節子/徳永圭子/沼野充義/野々すみ花/乗代雄介/橋本倫史/原 武史/パリッコ/平松洋子/星野博美/前田司郎/益田ミリ/松井 周/松永美穂/三木三奈/連 勇太朗/安田菜津紀/山下澄人/山下 優/山本 亮/横山悠太/吉川祥一郎/米田夕歌里

〈新連載〉

食客論  星野 太

言葉の展望台  三木那由他

世界と私のA to Z  竹田ダニエル

〈批評〉 

二度目の永劫回帰  樫村晴香

嫉妬が大好きなあなたたちへ  山本 圭

〈『文芸ピープル』刊行記念鼎談〉 

英語圏で「作家になる」こと  吉田恭子×小野正嗣×辛島デイヴィッド

〈特別対談〉  

不可視化されている私たちの言葉の居場所  小川公代×中村佑子

〈最終回〉 

ハロー、ユーラシア  福嶋亮大

〈コラボ連載〉

DIG 現代新書クラシックス〔5〕  どのような新書をつくるか  佐々木雄一

〈連載〉

見えない道標〔3〕  若松英輔

戒厳〔6〕  四方田犬彦

はぐれんぼう〔10〕  青山七恵

ゴッホの犬と耳とひまわり〔16〕  長野まゆみ

鉄の胡蝶は歳月に記憶を夢に彫るか〔33〕  保坂和志

スマートな悪 技術と暴力について〔2〕  戸谷洋志

こんな日もある 競馬徒然草〔3〕  古井由吉

旋回する人類学〔3〕  松村圭一郎

ポエトリー・ドッグス〔4〕  斉藤 倫  

マルクスる思考〔8〕  斎藤幸平

硝子万華鏡〔8〕  日和聡子×ヒグチユウコ

現代短歌ノート二冊目〔8〕  穂村 弘

日常の横顔〔9〕  松田青子

日日是目分量〔9〕  くどうれいん  

薄れゆく境界線 現代アメリカ小説探訪〔12〕  諏訪部浩一

歴史の屑拾い〔13〕  藤原辰史

「近過去」としての平成〔14〕  武田砂鉄

「ヤッター」の雰囲気〔14〕  星野概念

星占い的思考〔14〕  石井ゆかり

辺境図書館〔15〕  皆川博子

国家と批評〔14〕  大澤 聡

〈世界史〉の哲学〔132〕  大澤真幸

文芸文庫の風景〔5〕  六角堂DADA

極私的雑誌デザイン考〔16〕  川名 潤

文芸文庫通信〔3〕 

〈随筆〉

春と朝食  山田佳奈

〈書評〉

『さのよいよい』戌井昭人  小山田浩子

『翻訳教室 はじめの一歩』鴻巣友季子  阿部公彦

『デヴィッド・ボウイ 無を歌った男』田中 純  細馬宏通

『原子力の哲学』戸谷洋志  小林エリカ

〈創作合評〉

「最後の挨拶 His Last Bow」小林エリカ

「氷柱の声」くどうれいん

「誰にも奪われたくない」児玉雨子

野崎 歓×小澤英実×水原 涼