群像2017年9月号

中篇160枚

木村紅美「雪子さんの足音」

厚意と好意の狭間で押しつぶされそうだったあのころ──。突然の訃報が、20年ぶりに高円寺へと向かわせる。学生時代を過ごしたアパート「月光荘」の苦い記憶とともに……。木村紅美の中篇160枚「雪子さんの足音」


中篇120枚

三輪太郎「その八重垣を」

中国・雲南でのフィールドワークの帰路、台湾人の祖父母をもつ女性と出会った私は、国家によって引き裂かれたアイデンティティに向き合うことになる──。男と女が声を掛け合う歌垣。列島の源流に通じるその秘められた謎を解くため、アジアを旅する研究者が辿り着いた場所とは──。三輪太郎の中篇120枚「その八重垣を」


短篇

佐藤洋二郎「瀞」

斎田祐子から連絡がきたのは一ヵ月前のことだ──。もう四十年以上会っていない、あの頃少女だったひととの再会。妻を亡くした男が辿る、魂の道行き。佐藤洋二郎の短篇「瀞」


長篇評論

青木純一「上演の想像力──戯曲に見る三島由紀夫の生と劇(ドラマ)」(前編)

戦後の本格的な戯曲の展開を辿ることで、戦時と戦後の三島の精神の断続と連続性を検証。そして、三島自身の生を「劇」として観ることを追究する。戯曲から三島文学の神髄に迫る野心的な試み。渾身の長篇評論 青木純一「上演の想像力──戯曲に見る三島由紀夫の生と劇(ドラマ)」〈前篇〉


連載完結

多和田葉子、橋本治

susanooを訪ねてフランスのアルルに集った一同。そこにクヌートの母親が突然現れ、なぜかナヌークに怒りの声をかける……。失われた言語をめぐる旅の終焉。多和田葉子の「地球にちりばめられて」ついに完結!

 同じく、橋本治の「九十九歳になった私」も最終回。。人生は消しゴムに似ている。いくらこすってもそのまま消滅したりしない……。九十九歳の私の嘆きも、ついに絶筆???


もくじ

〈中篇160枚〉

雪子さんの足音       木村紅美

〈中篇120枚〉

その八重垣を        三輪太郎

〈短篇〉

瀞             佐藤洋二郎  

〈長篇評論〉

上演の想像力

 ──戯曲に見る三島由紀夫の生と劇(ドラマ)〈前篇〉

              青木純一

〈連作〉

ピエタとトランジ〈完全版〉〔7〕

              藤野可織

〈リレーエッセイ 私と大江健三郎〉

ずっと大江健三郎の時代だった 筒井康隆

〈連載小説〉

地球にちりばめられて〔最終回〕  多和田葉子

九十九歳になった私〔最終回〕  橋本 治

二月のつぎに七月が〔5〕  堀江敏幸

〈連載評論〉

人間とは何か                   ──フランス文学による感情教育──〔2〕中条省平

たましいを旅するひと──河合隼雄〔8〕 若松英輔

〈世界史〉の哲学〔95〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔88〕  穂村 弘

〈随筆〉

生命と尊厳のために怒れるか  荒井裕樹

あるべき姿  田中未来

また人を好きになってしまった  植本一子

エッセイ論  柳本光晴

〈私のベスト3

写真家が見た3つの自然の事実  宮崎 学

農をめぐる三冊  森 まゆみ

アナーキーな子供たちにLOVE♡  ラッキィ池田

〈書評〉

「実に実に実に不快だった」その日の三島由紀夫(『告白』三島由紀夫 TBSヴィンテージクラシックス編)平野啓一郎

他者への想像力の大事さ(『さあ、文学で戦争を止めよう 猫キッチン荒神』笙野頼子)木村紅美

「ウェーイ!」が作り出す未来(『キッズファイアー・ドットコム』海猫沢めろん)武田砂鉄

永遠の「かけがえ」                 (『茄子の輝き』滝口悠生)青山七恵

護符としての文学(『ゼンマイ』戌井昭人)李龍徳

〈創作合評〉

島田雅彦+阿部公彦+倉本さおり

「クイーンズ・ロード・フィールド」                                水原 涼(群像2017年8月号)

「私のこども」小林里々子(文藝秋季号)

「海亀たち」加藤秀行(新潮2017年8月号)