群像2017年2月号

短篇

青山七恵「帰郷」

仕事を辞め疎遠だった父母の家へ帰省したわたし。そのまま実家で暮らす淡い望みを胸に秘めていたが、そこは取り壊しが決まっていた。失意のわたしのもとに奇妙な隣人が訪ねてくる……。人生の分岐点にさしかかった女性の新たな出発。「帰郷」青山七恵


中篇140枚

水原 涼「蹴爪(ボラン)

悪魔から村を守るために作られることになった祠。闘鶏場の胴元・パウリーノがその責任者となった。その頃、近隣の村では、何者かによる殺人事件が頻発していた。村を覆う不穏な空気のなか、パウリーノの息子・ベニグノはただ、強くなりたいとだけ願っていた──。南洋の島の熱気とともにあふれ出す暴力の奔流。新鋭が挑む中篇140枚の飛翔作! 「蹴爪(ボラン)」水原 涼


デビュー小説

はあちゅう「世界が終わる前に」

ハンサムでいつも美女たちに囲まれていた彼が、なぜか私に興味を持ちつきあうことに。そんな彼は時々奇妙な言葉をつぶやくのだった──「世界に悪いことが起こる」と……。留学先での不思議な出会いと別れを描く「世界が終わる前に」ほか「サンディエゴの38度線」「六本木のネバーランド」の3作を掲載。言葉の壁や距離を超え築かれた、彼と私の、言葉にできない繊細な関係を見つめる、気鋭のブロガー・はあちゅうのデビュー小説!


短篇

青木淳悟「僕ボードレール」

「──偽善の読者よ──僕の同類──僕の兄弟よ!」大学受験に失敗した粕谷時春のノートの冒頭に記された一篇の詩。それは思春期の挫折から彼を救い出す言葉なのか? 背徳の詩人・ボードレールの、まだ名声を得る前の若き日々を辿りながら、鬼才が描き出すある青春の肖像。「僕ボードレール」青木淳吾


新連載評論

若松英輔「たましいを旅するひと──河合隼雄」

ユング心理学の第一人者・河合隼雄。彼がその出発点から重要視し、それ故に沈黙を守った「たましい」をめぐる思考の軌跡。気鋭の批評家が切り開く新たな河合隼雄論。新連載評論「たましいを旅するひと──河合隼雄」若松英輔


もくじ

〈短篇〉

帰郷  青山七恵

〈中篇140枚〉

蹴爪(ボラン)  水原 涼

〈デビュー小説 3つの短篇〉

世界が終わる前に

サンディエゴの38度線  はあちゅう

六本木のネバーランド

〈新連載評論〉

たましいを旅するひと──河合隼雄  

  若松英輔

〈評論〉

不可視との遭遇 原爆をめぐる「儀式」    高原 到

〈短篇〉

僕ボードレール  青木淳悟

〈連作〉

ピエタとトランジ〈完全版〉〔4〕  

               藤野可織

〈連載〉

地球にちりばめられて〔3〕  多和田葉子

九十八歳になった私〔5〕  橋本 治

山海記〔8〕  佐伯一麦

鳥獣戯画〔12〕  磯﨑憲一郎

〈連載評論〉

言語の政治学〔7〕  三浦雅士

新・私小説論〔12〕  佐々木 敦

〈世界史〉の哲学〔89〕  大澤真幸

〈連載〉

モンテーニュの書斎〔15〕  保苅瑞穂

現代短歌ノート〔81〕  穂村 弘

〈随筆〉

「怖い人」府川充男さんのこと  鳥海 修

21世紀の巡礼または音楽のテロリズム?  岡田暁生

十五歳だった!  松居大悟

SMAPは転がるように生きていく  矢野利裕

〈私のベスト3

残念な進化  今泉忠明

「コンピュータが小説を書く」小説  松原 仁

ANN DEMEULEMEESTERに魅かれて  佐藤天彦

〈書評〉

加速器のなかの衝突(『土の記』髙村薫)三輪太郎

無数の「声」の物語(『平家物語』古川日出男訳)安藤礼二

願望と現実のせめぎ合う日常の切実さとあやうさ(『あひる』今村夏子)日和聡子

〈創作合評〉

小池昌代+鴻巣友季子+武田将明

「もう生まれたくない」長嶋 有(群像2017年1月号)

「塔と重力」上田岳弘(新潮2017年1月号)