群像2016年7月号

心あたたまる中篇

青山七恵「ミルキーウェイ」

離婚して別々に暮らしていた父親が再婚し、歳の離れた妹ができた。中学生で名前は由香。会うのは五年ぶりだというのに、瑛子は彼女に強く請われ、山の頂上までふたり星空を見るキャンプに向かうことに……。青山七恵「ミルキーウェイ」、人生の小さな分岐点を描く快作です。


新連載 新しい老人小説 

橋本 治「九十八歳になった私」

ボランティアのバーさんに「来年は白寿ですね」と言われた。「来年は白痴ですね」と聞こえた。百までなんて生きたかねーよ。九十八歳になった作家である主人公が、日々の移ろいをリアルな筆致で書き留める新しい「老人小説」。橋本治「九十八歳になった私」、連載開始です。


大好評短篇が連作で再登場!

藤野可織「ピエタとトランジ〈完全版〉」

親友の名前はトランジで、私はピエタ。二人の周りでは事件が次々に起こって……。『おはなしして子ちゃん』に収録された大人気短篇が「完全版」として再登場! 奔放で奇想的な世界をポップな筆致で描く著者初の長篇小説、藤野可織「ピエタとトランジ〈完全版〉」松本次郎のイラストにも注目です。


「孤独の発明」最終章スタート

三浦雅士「言語の政治学」

水村実苗が『日本語が亡びるとき』で提唱した現地語、国語、普遍語という三つの概念。それを皮切りに言語はどのように発達してきたか思考する――。本格文芸評論「孤独の発明」最終章、三浦雅士「言語の政治学」、スタートです。


連作 黒井千次、町田 康、李 恢成

黒井千次の連作は「コートとボール」。思想検事だった父について知るため、同じく検事を父親に持つ女性と語り合う主人公。謎は深まるばかりで……。

さすが恐るべき女! ヨーコは人々をうまく騙くらかして、危険な地上と地下のシェルターの間を取り持つ卑劣極まりない商売を成功させていた。それを知り怒りに震えた「私」は……。町田康「ホサナ」、ついにクライマックスです。

新しい雑誌を立ち上げようと動き出した愚哲たちだったが、さまざまな障害が起きて……。李恢成「地上生活者 第六部 最後の試み」、必読です。


もくじ

〈中篇〉

ミルキーウェイ  青山七恵

〈新連載〉

九十八歳になった私  橋本 治

〈新連作〉

ピエタとトランジ〈完全版〉  藤野可織

〈新連載評論〉

言語の政治学  三浦雅士

〈連作〉

コートとボール  黒井千次

ホサナ〔16〕  町田 康

地上生活者 第六部 最後の試み〔3〕  李 恢成

〈連載〉

山海記〔3〕  佐伯一麦

いのち〔4〕  瀬戸内寂聴

鳥獣戯画〔6〕  磯﨑憲一郎

コンテクスト・オブ・ザ・デッド〔6〕  羽田圭介

〈連載評論〉

新・私小説論〔7〕  佐々木 敦

美と倫理とのはざまで カントの世界像をめぐって〔9〕 熊野純彦

〈世界史〉の哲学〔83〕  大澤真幸

〈連載〉

モンテーニュの書斎〔9〕  保苅瑞穂

現代短歌ノート〔75〕  穂村 弘

〈随筆〉

ミステリーの王国からの便り  島田荘司

谷崎潤一郎と岩野泡鳴――それぞれの大阪女性像――  井上章一

「翻訳者の家」にて  松永美穂

ありふれた日常の驚くべき絶景  服部文祥

〈私のベスト3〉

ウルトラマンシリーズの音楽  浅井和康

季節  鎌田順也

台湾人作家の謎  天野健太郎

〈書評〉

「境界」を切り裂く言葉(『尻尾と心臓』伊井直行)富岡幸一郎

いやます技術(テクネー)の祝祭(『求愛』瀬戸内寂聴)清水良典

伝達者は外へ外へ(『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』津島佑子)佐藤康智

〈創作合評〉

吉村萬壱+苅部 直+福嶋亮大

「鏡」内村薫風(新潮2016年6月号)

「コンビニ人間」村田沙耶香(文學界2016年6月号)

「ジニのパズル」崔 実(群像2016年6月号)