第58回群像新人文学賞には1762篇の応募があり、
青山七恵、高橋源一郎、多和田葉子、辻原登、野崎歓の5氏による
選考の結果、下記のように決定いたしました。
受賞作と受賞の言葉、選評は群像2015年6月号をお読み下さい。
【小説部門 当選作】 「十七八より」
乗代雄介 受賞のことば
中学生の頃、古本屋の狭い通路に立ち、小さな首ふり扇風機の不愉快な風を顔に受けながら、いがらしみきおの『のぼるくんたち』を読みふけっていた自分は、是非ともこういうものをつくりたいと強く思いました。
それが自分にできるとしたら言葉によってでしかないということは薄々感づいていましたし、その願望の完成品を「小説」と呼ぶしかないこともなんとなく知っていました。しかし、小説家でもないのに「小説」を書くというのは恥ずかしいことです。そのため、自分の書くものは知らず知らず、書くための「いいわけ」か、ピントの外れた「おふざけ」になり、それらをまとめて「創作」と呼び続ける羽目になりました。十年以上も「創作」を続けるとそれなりに上達するもののようで、二年ほど前から、何を書いても、これは「小説」だと思えるようになりました。もう大丈夫だろう。どうせデビューするなら「いいわけ」の方がいいだろうと、その気分の色濃く出た「小説」を書き、(これは特に理由もなく)群像新人文学賞に応募したところ、幸福なことに賞をいただくことができました。書いている間は、『サリンジャー 生涯91年の真実』、『死んでも何も残さない』、『決定版カフカ全集7 日記』の三冊にたいへんお世話になりました。
自分が文学の方へふらふら歩み寄ることになったきっかけは、『のぼるくんたち』にあった人間と記憶にまつわる問題の魅力的な近寄りがたさです。そんなこと中学生にはわかりませんでしたが、とつおいつ「いいわけ」と「おふざけ」をくり返し、何年かごとに『のぼるくんたち』を読み返して呆然とするたび、そう信じてしまえるようになりました。まがりなりにも、同じ問題に取り組む「小説」が書けたことを嬉しく思います。
また、一人で書いてこられたのは、何より、自分がふれた数多の作品の中に見落としながら感じていたものを、自分が書いたものの中にふと幻視する瞬間に訪れる、静かな、この上ない歓びのおかげです。このたびは、ありがとうございました。 |